本記事では図解で分かりやすく「人工知能・AIの進歩の歴史」を紹介します。
“人工知能”や”AI”、”ディープラーニング”という言葉は、いま流行りですね。
でも実際のところ、人工知能・AIに
「何ができて、何ができないのか?」
そしてこれから「何ができるようになりそう」で
今後「人はどう働き・生きるべきなのか?」
このAI時代について、自分の意見を整理できている人は少ないのではと思います。
本サイトでは「AIシリーズ」と題して、人工知能・AIについて紹介し、このような疑問に私見を紹介します。
本記事はAIシリーズ第1回として、「人工知能・AIの進歩の歴史」を初心者向けに噛みくだいて紹介します。
人工知能の歴史は、研究者によって様々な分類の仕方、進歩の説明の仕方があります。
本記事では、私が考える、初心者に最も分かりやすい方法で、「AIの進化の歴史」を紹介します。
本記事では「囲碁や将棋といった競技を基準に、AIの歴史」を紹介します。
最近、「将棋や囲碁で、人工知能・AIがプロに勝った」というニュースを耳にした方も多いのではと思います。
そのようにAIが進歩していった歴史を、
①迷路が解けるAI
↓
②チェスで勝てるAI
↓
③将棋で勝てるAI
↓
④囲碁で勝てるAI
と競技ごとに、直面した問題点を明確にし、それを乗り越えるためにAIがどう賢くなったのかを説明します。
それではお楽しみください。
第1AI:迷路が解ける人工知能
人工知能・AIの第一段階は、コンピュータの誕生にともない生まれました。
この段階の人工知能を一言で表すと、「全探索」、「力ずくAI」です。
この一番初期のAIのことを「第1AI」と呼びます。
なおこの呼び方は私が便宜上呼んでいるだけで、一般用語ではありません。
「第1AI」に、「迷路を解く」という課題を与えた場合、
①最初の角は右で、次に左で・・・
②最初の角は右で、次に右で・・・
③・・・
と「全ての歩き方を試してみて」、距離を比べ、最短距離でゴールできる道筋を見つけます。
これで人よりも早くが迷路を解けるようになりました。
ですが正直、”知能”って感じはしませんね(笑)
この第1AIですが、大きな問題点があります。
「全探索が不可能な課題に対応できない」という問題です。
例えば、「チェス」の場合には、自分が動かせるコマ・動かせる先が無数にあり、その後、相手も自由にコマを動かし、それが、数十手続きます。
すると、決着までの組み合わせの数は莫大で、天文学的数字になり、現実的な時間内で全探索して、「絶対に勝てる手」を発見することができなくなりました。
第2AI:チェスで勝てる人工知能
「課題によっては全探索が不可能」という第1AIの問題点に対して、第2AIは全探索することをあきらめ、「その場その場で勝てそうな最善の手を選ぶ」という解決方法を提案しました。
この方法を実現するには2つ重要な要素がありました。
1つ目は「局面評価=途中の各局面で勝てそう度合いを数値化」
2つ目は「相手が出しそうな手を考え、確率的に最善の手を決定する決定方法」
でした。
局面評価(各局面の勝てそう度の数値化)
第2AIでは各局面や、一手動かした後の局面で、「どれくらい勝てそうか」を数値化しました。
第2AIは、「コマの並びの条件」とそのコマ並び条件の「得点」を、技術者が適当に決めます。
例えば「チェスで強いコマであるクイーンが相手のキングにどれくらい近いか」を条件と決めます。
そして、クイーンがキングの2マス横なら10点、2マス斜め横なら3点、と得点を人が経験的に決めました。
最終的にはチェスのプロの意見なども聞いて、どうにか調整して局面評価(各局面の勝てそう度の数値化)を実現しました。
ベイズ推定
第2AIは終局までの全探索は無理でも、数手先までなら探索することができます。
そのときに、「次に指す手はどれが良いのか?」を選ぶのに、ベイズ推定と呼ばれる統計手法が使われました。
ベイズ推定とは「前提条件を考慮した確率計算」のことです。
少し難しい言葉が出てきたので、簡単な例で説明します。
例えば、明日東京で雨が降る確率を考えるとしましょう。
もし今が梅雨の時期であれば、明日雨の確率はきっと高いと思います。
一方で、今が冬のように雨が少ない時期なら、明日雨の確率はきっと低いです。
これは、「現在の季節」という前提条件をもとに、明日の天気の確率を推定しています。
チェスでも同様に、自分がこう指すと、相手がこう指すが確率が高く、そこで次に自分がこう指すとこうなる。
一方で、自分がああ指すと、相手はああ指す確率が高く、次に、自分がああ指すとああなる・・・
これらを総合的に考えると、3手先で最も勝てる局面になりやすいのは、これだ!
と考えて、次に指す手を決めます。
これが前提条件付確率によるベイズ推定というものです。
相手の次の手を確率的に考え、こちらの最適な選択を推定します。
ここでは「相手はきっとこう指す」というのを前提条件としています。
ベイズ推定は現在でも多く使われている手法です。
例えばAmazonのおすすめでも、本Aを買っている人は、本Bも買っている人が多い。
そこであなたが本Aを買った場合には、「あなたはきっと本Bに興味が高いはずだ」とベイズ推定して、「本Bはいかがですか」と推薦してきます。
この記事は確率統計のベイズ推定のお話ではないので、ここらで切り上げますが、このようにベイズ推定は今も非常に重要な概念です。
この「局面評価(各局面の勝てそう度の数値化)」と「ベイズ推定による数手先まででの最善策の決定」により、1997年、第2AIはチェスで人間のチャンピオンに勝てるまでになりました。
この頃、現在の盛り上がりと同じくらい、人工知能の時代が来るのではと期待されました。
ですが、第2AIには致命的な課題がありました。
それは局面評価において、「とあるコマ配置条件」に対して、何点を設定するのかという得点設定が職人技であり、人間の工夫しだいであった点です。
するとチェスより複雑な将棋という競技に挑んだときに、この「勝てそう度の得点化」をうまく設定できず、本当に強い将棋AIは作れませんでした。
第3AI:将棋で勝てる人工知能
「第2AIでの課題である「とあるコマ配置条件」に対して、何点を設定するのか、という「得点設定」の課題を解決したのが第3AIです。
この解決には「機械学習」と呼ばれる手法が使われました。
機械学習
機械学習について簡単に説明します。
本記事では機械学習のなかでも、「教師あり学習」と呼ばれるものを説明します。
教師あり学習では、教師となるデータとして、実際に終局まで行なった棋譜データを使用します。
この場合、「とある局面」が、終局までいったときにその局面から勝てたのか負けたのかを棋譜データを元に知ることができます。
そしてその結果から、「この局面はこれくらい有利だったのか~」とAIが学習します。
これをたくさんの棋譜データで行ないます。
すると、
「桂馬が相手の王将に近くても勝ったり、負けたりだな~」と学習し、「じゃあ、桂馬と相手の王将の位置関係はあまり重要でないから1点にしよう」、
一方で「飛車が相手の王将に近いと勝てたケースが多いぞ、これは5点にしよう」と設定します。
この得点を少しずつ調整して、学習した棋譜データを最もきちんと再現できる「各コマ配置条件での得点」を機械学習は自動で設定してくれます。
このように、人間が経験と直感で、とある条件に対して得点を決めていたのを、膨大な棋譜の教師データをきれいに再現できる点数設定にチューニングするのを機械学習といいます。
ちなみに将棋でプロに勝ったポナンザというプログラムは、各コマ配置の条件がなんと1万程度ありました。
そしてこの1万個の条件に対して人が得点付けするのでなく、機械学習で最適になるように得点設定することで、ついに2012年、将棋でプロに勝ち越すようになりました。
しかし、この第3AIでも大きな問題点がありました。
第3AIでは機械学習で得点設定は自動でできても、「コマ配置の条件」そのものは人間が手作業で考えて作っていました。
その結果、将棋よりさらに複雑な「囲碁」に挑んだ場合には、この数万個の条件そのものを人間がうまく作れないという問題にぶつかることになりました。
第4AI:囲碁で勝てる人工知能
第3AIの課題である「とあるコマ配置の条件そのものを作るのが難しい」という問題点を、最新の第4AIでは「ディープラーニング」というプログラムを利用することで解決しました。
ディープラーニング
ディープラーニングについて説明します。
ディープラーニングとは、通常は3層で使われていたニューラルネットワークをより多層に(ディープに)したニューラルネットワークです。
はっきりいってこの説明では、初心者の方には「ニューラルネットワークって何?」、「3層とかの層って何?」と、疑問だらけだと思います。
これらをきちんと理解するには工学系大学レベルの知識が必要となります。
そのため、一般の方は次の3点を抑えておけば大丈夫です。
囲碁でのディープラーニングとは
①人間の脳内の神経細胞の働きの”一部”を模擬したプログラムである
②たくさんの囲碁の棋譜データを使って、学習する
③学習すると、現在の石の位置を入力すれば、自動的に局面評価(どれくらい勝てそうか度合い)が出力される
これは囲碁の例ですが、囲碁以外でも、同様に何かを入力し評価を出力させて、最適な行動を決定することができます。
このディープラーニングというプログラム手法の出現により、将棋なら駒の配置、囲碁なら石の配置に対して、自分たちで条件作成と得点設定をしなくても、このプログラムに
現在のコマ配置を入力するだけで、局面評価(どれくらい勝てそうか度合い)を求めることができるようになりました。
そして2016年に囲碁でも人工知能・AIがプロに勝ち越すようになり、現在の人工知能ブームがやってきます。
ただし注意点があります。
ディープラーニングが神経細胞の働きを模擬しているからといって、ディープラーニングが「私たちの脳の代わり」になっているわけではありません。
あくまで”脳内の神経細胞の働きの一部”を模擬しているだけであって、ただのプログラムなのです。
ディープラーニングというものが開発され、囲碁でプロに勝ったからといって、それは私たち人間の脳を作ったわけではないという点に注意して下さい。
しかしこのディープラーニングでも問題点はあります。
それはプログラムを完成させるためには膨大な学習データが必要だといういうことです。
プロに勝ったアルファ碁というプログラムの場合、16万局分(2940万局面)の囲碁データを使用しています。
まとめ
以上、AIの進化の歴史を紹介しました。
おさらいしますと、迷路、チェス、将棋、囲碁と、競技の複雑度を上げていき、各競技でプロに勝つために、全探索、ベイズ推定、局面評価、機械学習、ディープラーニングとAIは進歩してきました。
いかがでしたか?
本記事では、「人工知能・AIの進歩の歴史」についてご紹介しました。
「これ絶対3分で読めないだろ!」という点はご容赦ください。
ただこのように、競技ごとにAIの進歩の歴史を整理すると分かりやすいと思います。
次のページでは、このディープラーニングが搭載された最新の第4AIは「何ができて、何ができないのか」、そして現在のAIの弱点を紹介します。
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