この先AI時代の「学校教師・教育者」の役割 | AIシリーズ⑥

人工知能・AIが発達していくAI時代・AI社会において、学校教育、教師の役割がどう変わっていくのか、私見をつづります。

本記事ではAIが発達し、多くの仕事が人工知能にとって代わる未来において、教育では何を教え、教師がどういった能力を持ち、働くのかについて考えてみます。

マインド、知識(ナレッジ)、スキルと3分野に分けて考えます。

なお、これまでの人工知能・AIシリーズの過去記事はこちらをご覧ください。

>>人工知能・AIシリーズの過去記事一覧

AIが発達した未来の学校教育・教師の未来を考える

そもそも、AIが発達した未来で、「何を教えるのか?」を定義せずに、教師が必要かどうか、また教師の役割がどう変わるかを論じることはできません。

では、未来の学校では何を教えるのでしょうか?

マインド、知識(ナレッジ)、スキルの3種類に分けて、ひとつずつ整理していきます。

まずは知識から考えます。

知識教育は必要か?

まずは分かりやすい「知識(ナレッジ)」から入ります。

未来のAI社会で「知識」を教える必要があるのでしょうか?

今でもインターネットで検索すれば、知らない知識は簡単に手に入ります。

となれば、知識を教える必要はあるのでしょうか?

私としては、知識を教える必要はあると考えています。

なぜなら「簡単に知識を検索して知れること」と、「知識を使えること」とは別であり、未来のAI社会で働く能力に「イノベーションを起こせる能力」が必要だからです。

AIシリーズ③:AI時代の働き方で、未来の仕事として「クリエイティブさを用いたイノベーションを起こす仕事」を例に挙げました。

この「イノベーション」という言葉は、1911年に経済学者シュンペーターによって、初めて定義された言葉です。

このときドイツ語で「neue Kombination」という言葉が使われており、英語ではNew Combination(新たな結合)という意味になります。

つまりイノベーションとは、2と3から2×3の6を生み出すような、既存知識と既存知識との結合で生まれるのです。

そのため、既存知識が頭に入っていないと、それを用いてイノベーションを起こせません。

例を挙げましょう。

アインシュタインは相対性理論を生み出しました。

ではなぜアインシュタインは相対性理論を生み出すことができたのでしょうか?

その背景には、マイケルソン・モーリーの実験による「光の速度が不変である」という知識がありました。

さらにこれまでの「ニュートン力学」という知識がありました。

最後に「光に乗って物を見るとどうなるだろう?」というアイシンシュタインの好奇心が組み合わさった結果、アインシュタインは特殊相対性理論を生み出すことに成功しました。

このときアインシュタインがいちいち知識を知らずに、インターネットで検索する人であったら、相対性理論のような物理学のイノベーションは起こらなかったでしょう。

よって、子供たちに知識を教えることはこの先のAI時代の教育でも重要です

ですが、それと、教師が知識を教えるかどうかは別の話です。

私は、教師が知識を教えることは、今後なくなっていくと考えています。

現在でもコーセラなどのMOOCsが進歩しており、インターネット上で知識を学ぶことができます。

また、「今でしょ」でおなじみの林先生の東進ハイスクールも「動画授業」です。

最近ではQubenaのような、AIを用いて、生徒のつまづき合わせて問題を変えて教えるMOOCsも出てきました。

そもそも検定教科書という同じ教科書を、異なる学校でも同じように使って、同じ指導要領で同じ内容を教えています。

普通に考えれば、先生ごとに教え方を変える必要はないでしょう。

一番教えるのがうまい先生の手法や動画を使いましょう、となります。

いやいや待てよと・・・

「実際に教育の現場にいると、子供が勉強を頑張る理由って、実は先生の人柄によるものも大きいよ」

「先生が好きだったから、その科目も好きになって、テストの点が上がった」

そういった経験のある人も多いと思います。

「だから、教師は必要なんだ~」という意見もあるかもしれません。

ですが、今後はきっと、「ドラクエやFFやポケモンをやるくらいに面白い、知識を得るためのMOOCs」が発明されると思います。

そんなものができれば、もう子供たちは夢中になって、ゲーム感覚で知識を得ていきます。

願わくばそんなMOOCsが、コンテンツ産業やアニメ、娯楽産業で世界トップの日本から生まれてくれればと思います。

以上、知識についてまとめます。

AI社会でも知識教育は必要であるが、IT・AI・MOOCsの進歩により、知識を教えるために教師が個別に授業を展開することはなくなる、というのが私の予想です。

次にスキル教育に移ります。

スキル教育は必要か?

次に子供たちにスキルを教えるのは必要か、という問いですが、これは必要だと考えています。

ここでスキルとは、主に

「問題解決能力」、「プロジェクトマネジメント力」、「プレゼンテーション力」が挙げられます。

これらのスキルが、「AI社会で活躍し、AIにできないことをやる人間」と、「AIに使われる側の人間」を分ける大きな要因となります。

詳しくはAIシリーズ③:AI時代の働き方をご覧ください。

ですが問題は、現在の教師にこれらの3スキルを教える能力が乏しい点が挙げられます。

現行の、教育学部などを出てすぐの22歳の人間が教師をする制度では無理があります。

問題解決能力は推論力(思考力)をベースとして、未解決の課題に対して、妥当的な解を導く力です。

このような問題解決能力は実際に「研究」や「ビジネス」を体験してみないと、磨かれません。

ですが、現在の多くの教師は学部の卒業研究ですら、まともに経験していません。

本当に最低レベルでも、国内学会で発表したことがあるレベルは求められます。

「問題解決能力」、「プロジェクトマネジメント力」、「プレゼンテーション力」を育てることは今後ますます重要になります。

そして国はそれを分かっており、そうした授業を取り入れようとしています。

ですが、教員採用試験や条件に、そうしたスキル能力を採点・吟味する動きはありません。

スキルのない教師にスキルは教えられません。

そのため、このようなスキルを教えられる「博士卒で研究経験のある人間」や、「ビジネス経験のある人間」が教育現場にいく仕組みを作っていく必要があります。

また、現在の教師に対して、そうした能力を磨かせるために一度企業へインターンさせに行くシステムなどを整備する必要があります。

まとめます。

この先のAI時代には「問題解決能力」、「プロジェクトマネジメント力」、「プレゼンテーション力」を育むことが重要です。

そして、教師にもそうしたスキルが求められ、この先教師になるには、実際のビジネスや研究経験が必須となると、私は考えています。

それでは3番目のマインドのお話をします。

マインドの教育は必要か?

3番目に子供たちにマインドを教えるのは必要か、という問いですが、これは必要だと考えています。

マインドというとあやふやですが、「リーダーシップ」や「奉仕の心」、「ライフデザイン」です。

「リーダーシップ」や「奉仕の心」を教えるには、実際にビジネスの現場でリーダーシップをとり、プロジェクトをマネジメントした経験が求められます。

そして3番目の「ライフデザイン」ですが、ライフデザインと言うと、子供に教えるものらしくないですが、ここでは「なぜ生きるのか」、「どう人は生きるべきなのか」、「どんな夢を持ち、どんな人生を歩みたいのか」という、人生に対する哲学を指します。

人生哲学が大切な理由を説明します。

なぜなら人生哲学こそが、AIが完全に発達した社会で残る、人間がやるべきことだからです。

実は過去に完全AIが生まれていた時代が人類にはありました。

古代ローマやギリシャのお話です。

この頃は、奴隷という存在がありました。

敵国の負けた人間ですが、ある意味では、自国の人間の代わりに働く「完全AI」とも呼べます。

現在の倫理観ではありえない考え方ですが。

そして奴隷によって労働から解放された人々は何をしたのか?

そう、哲学にふけるようになり、ソクラテスやアリストテレスのような人が生まれました。

この先AIが発展するに従い、歴史的に考えても、人々はより哲学的になります。

「世界はどうできているのだろうか?」という問いは科学が請負いますが、「人はなぜ生きるのだろうか?」、「人はどう生きるべきなのか?」という問いがより大きくなります。

教師は絶えず、こうした問いと向き合い、子供たちに自分なりの考えを話せる必要がでてきます。

AIには「生きるということ」、「人としてどう人生を選択するのか」については教えられません。

人間でないと、生きるということ、愛するということは教えられないのです。

また、話は変わりますが、相手が子供なので児童心理学を学び、カウンセラー的な立場の教師も必要です。

このあたりは、現行の教師教育でもある程度は磨かれている能力だとは思います。

まとめます。

今後、「リーダーシップ」や「奉仕の心」、「ライフデザイン(人はなぜ生きるのか、どう生きるべきなのか、どんな夢を持ち、どんな人生を歩みたいのか)」というマインド面を磨くことが、子供たちをAI社会で活躍する人間に育てるためには必要となります。

そして、そのためには「生き様でそれらを伝えられる教師」が必要です。

以上、マインド、スキル、知識(ナレッジ)に分けて、教えるべき能力と教師の役割をまとめました。

この先AI時代の教師の役割をまとめます。

AI時代の教師の役割、教師に求められる能力

この先のAI時代、AI社会において、教師、教育者に求められる役割、能力をまとめます。

知識面では、MOOCsによる授業を、サポートできる能力が求められます。

スキル面では、「問題解決能力」、「プロジェクトマネジメント力」、「プレゼンテーション力」を育むことが重要となり、実際のビジネスや研究経験でこれらの能力を実践レベルで鍛え、それを教えられる能力が必要となります。

マインド面では、「リーダーシップ」や「奉仕の心」、「ライフデザイン(人はなぜ生きるのか、どう生きるべきなのか、どんな夢を持ち、どんな人生を歩みたいのか)」を育むことが重要となり、児童心理学に長けるとともに、実際のプロジェクトリーダー経験と、人はどう生きるべきか、常に問い続け哲学する習慣が必要となります。

これらすべてを一人の教師で担う必要はありませんが、現在の教師に求められている能力の、はるか上の能力をこの先必要とされます。

現行の教師という仕事が、非常に大変であることは認識しています。

そして、それは教師個人の問題ではなく、国や自治体が定めたシステムの問題です。

とくに既存システムが、インダストリー2.0レベル(日本の高度経済成長の頃の産業レベル)に最適化されているためです。

インダストリー3.0のIT社会、そしてこれからのインダストリー4.0のAI社会に適した「教育現場システム」を、国や自治体は整備する必要があります。

そうしたシステムの改変・整備をしないまま、インダストリー2.0レベルで育成・採用した教師に、「インダストリー4.0レベルのAI社会に適した教育をしろ」というのは、あまりに現場が大変です。

ですが、国がそのようなシステム整備するまで待つことはできません。

その間にも子供たちは年齢を重ねます。

日本の子供たちはこれから、ドラえもんが生まれるような超AI時代まで生きることになります。

(詳しくはライフシフト書評を参照してください)

教育の現場にいる人間や保護者は、そんな時代でも「幸せに生きていける能力」を、いまから子供たちに育む必要があるのです。

最後に、「AI時代の教師としての役割・能力を磨こうとする意識」が、自分の子供の担任の先生にどの程度あるか、判定する質問集をお伝えします。

これからの教師に問いたい質問集

最後に「AI時代の教師としての役割・能力を磨こうとする意識」を問う質問の例を紹介します。

これからの時代、次に挙げるような質問が、保護者の方々から先生に問いかけられると思います。

【知識編】

1.検索すればなんでも知識が得られるこの時代に、暗記科目をする意味はあるのですか?

2.MOOCsなどが流行っていますが、コーセラ(Coursera)などでおすすめの授業はありますか?

【スキル編】

1.本日の日経新聞のトップの記事について、先生はどういった意見をお持ちですか?

2.STEM教育が大切と聞きますが、サイエンスとテクノロジーとエンジニアリングってなんだか同じに聞こえます。どう違うのですか?

【マインド編】

1.会社の上司に子育てや教育をするならば、「修身教授録」という本はぜひ読んでおきなさいと言われました。どのような本ですか?

2.20年後の日本と世界を考えたときに、先生はどんな人間を育てたいとお考えですか?

どれもなかなか難しい問いです。

ですが、これらに対してスパッと答えられない教師では、子供たちに「20年後の世界で幸せに生きる能力」を育むことは難しいと、私は考えます。

現在、教育の現場にいない私が、非常に勝手に私見を述べた記事となりました。

私は昔は大学で、ポスドクという立場ではありましたが、本記事で書いたような能力を育むように意識しながら、学生の指導をしていました。

現在の教育現場が非常に大変なことは重々承知です。

私は現在の教育現場で頑張る教師の方々を批判するつもりは一切ありません。

先ほども述べたように、インダストリー2.0レベルの国の教育システムのなかで、インダストリー4.0レベルの教育が求められるというギャップのすべてが、現場の負担となっています。

そんななか、教育に携わる先生方を、私は尊敬しています。

本記事が、そんな先生方や教育現場がさらに進歩し、子供たちにより良い教育を提供できる、なにか一助にでもなれば幸いです。

その他おすすめ本としては、「修身教授録」と「2020年からの教師問題」が挙げられます。

「修身教授録」では教育者のあり方が示されています。

「2020年からの教師問題」では、首都圏模試センターの思考コードに基づき、問題レベルを「知識レベル」、「論理的思考レベル」、「創造的思考レベル」と3つに分割して考える方法が示されています。

p.169では、例としてフランシスコ・ザビエルに関する、3つのレベルの例題が紹介されています。

子供たちの「答えの無い問題に取り組む問題解決力」を教師がどう育むのか、参考になると思います。

ロジカルシンキングについては、私もまとめてみました。

参考になれば幸いです。

本サイトのロジカルシンキング関連ページ一覧

一例

論理的思考はアナログ的で思いやりが大切:ロジカルシンキングと「弓と禅」|問題解決能力⑦
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以上ご一読いただきありがとうございました。