【図解:3分で解説】クリスパー・キャスナインとは|遺伝子改変、ゲノム編集技術

21世紀の人類の生活を変える「遺伝子改変技術クリスパー・キャスナイン」について図解を用いて分かりやすく解説します。

クリスパー・キャスナイン(CRISPR/Cas9)とは生物の遺伝子を書き換える技術です。

CRISPR/Cas9はそのうちノーベル賞を受賞するのではと言われている、21世紀の人類の生活を大きく変える技術です。

本記事では、3分間でこの技術が分かるように、

①そもそもクリスパー・キャスナインとはどんな技術なのか

②今までの遺伝子改変と何が違うのか

③どのように人類の生活を変えそうなのか

について説明します。

クリスパー・キャスナインとは

クリスパー・キャスナインは、遺伝子改変、ゲノム編集に使用される技術です。

「クリスパー」と「キャスナイン」の2つの働きで遺伝子を自由に書き換えます。

名称の前半のクリスパーとは、CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)の略語です。

やはり良く分からないですね。

CRISPRとは実は、「細菌」の「遺伝子(DNA)に繰り返し現れる配列」のことです。

DNAは、A(アデニン)、G(グアニン)、T(チミン)、C(シトシン)の4つの塩基のいずれかが並んだものです。

CRISPRは次の絵のような配置をしています。

赤い下線がCRISPRです。

ATCGはくっつくことができるので、これらがくっついて、上図の下側のように折りたたまれて、適当なDNA配列部分CRISPR(折りたたまれた形部分)になります。

名称後半のキャスナインとはCas9という酵素タンパク質です。

実はこのキャスナインCRISPRがくっつくと、青い適当なDNA配列部分と同じものを見つけ、それを切断する能力があります。

そのため、くっついた、クリスパーキャスナインを遺伝子改変したい生物のDNAに注入すると、青い適当なDNA配列部分を見つけ、切り取ります。

この青い適当なDNA配列部分が切り取りたい配列であり、「改変したいDNA配列」に対応します。

切り取られたあとは、既存の技術で、好きな遺伝子配列をそこにくっつけることができます。

これで遺伝子の改変・編集が完了します。

今までの遺伝子改変との違い

つぎにクリスパー・キャスナインが、今までの遺伝子改変とどう違うのかを説明します。

既に遺伝子改変大豆とか、小麦粉とか、遺伝子改変された食物がありますよね。

もう既に遺伝子改変は実現しているのに、なぜクリスパー・キャスナインが注目を集めているのでしょうか。

実は今までの遺伝子改変技術で、改変したい場所のDNAを切断するのには2種類の方法がありました。

一つ目は、受精卵に強い紫外線を当てる方法です。

二つ目は、改変後のDNAを組み込んだウイルスに感染させる方法です。

ウイルスは自分の遺伝子を宿主の遺伝子と取り替える作用があります。

これら二つの方法が取られていたのですが、どちらも確実に改変したい場所を切断できるとは限らず、DNA配列のどの遺伝子が切られるかは分かりませんでした。

何度も何度も実験を繰り返し、たまたま目的の場所で遺伝子が切断された場合のみ成功していました。

そのため非常に手間がかかることや、実験回数を増やしにくい高度な生物では遺伝子改変を行なうことが困難であるという問題を抱えていました。

(植物の種はいくらでも取れますが、哺乳類の受精卵を同じくらい集めるのは大変です)

しかし、クリスパー・キャスナインであれば、確実に狙ったところで遺伝子を切断できるため、これまで大変だった遺伝子改変が簡単、確実に、手間なくできるようになったのです。

どのように人類の生活を変えそうなのか

クリスパー・キャスナインを使用すれば、本当に自由に遺伝子を改変できるので、様々なことが可能になります。

第一段階としては、食物分野での応用です。

例えば、以下のような生物・植物を生み出すことができます

・鳥インフルエンザに強い鶏

・身がつきやすい養殖魚

・たくさん実がなるトマト

なんかの研究はすでにかなり行なわれています。

第二段階は、病気の治療です。

例えば、

・エイズウイルスに強い白血球を身体に注入

・筋肉が増えやすい筋細胞を注入し、老化による脚力低下の改善

などが考えられます。

この先は、倫理的に非常に議論が起こるレベルです。

第三段階は、体外受精時に受精卵にクリスパーキャスナインを注入して、遺伝子改変したデザイナーズベイビーの誕生です。

これは単純に筋力増強とか、頭が賢くなるなどいった目的では使われないでしょうが、先天的遺伝子疾患の治療として、どこまで使用可能なのかは議論が難しいところです。

以上、クリスパー・キャスナインの内容、既存技術との変化、未来への影響を説明しました。

この先20年の人類の食生活や医療を変える新技術なので、知っておくと良いと思います。

実はこのクリスパーという遺伝子配列は、1986年に現在九州大学の石野良純博士らによって発見されました。

ノーベル賞を受賞できたら嬉しいな~と思います。

以上、図解まとめ3分間で分かるシリーズとして、クリスパー・キャスナインの紹介でした。

この後、補足として

①クリスパー・キャスナインをめぐる倫理性

②「石野博士がクリスパーを発見したエピソード」から考える日本の科学のあり方

の話を掲載しております。

もし興味があれば、続けてご一読ください。

クリスパー・キャスナインをめぐる倫理性

もしこの先、体外受精において、受精卵の遺伝子検査ができるようになったとしたら、クリスパー・キャスナインはどこまで使用は許されるのでしょうか?

もしこのまま生まれたら、先天的な遺伝子疾患を持ち、20年しか生きられないとしたら、その治療のために受精卵の遺伝子改変は許されるのでしょうか?

もしこのまま生まれたら、先天的な遺伝子疾患を持ち、障がいを持つとしたら、その治療のために受精卵の遺伝子改変は許されるのでしょうか?

アルツハイマーになりやすい遺伝子やガンになりやすい遺伝子配列だったとしたら、その遺伝子編集のために受精卵の遺伝子改変は許されるのでしょうか?

足が速く、頭の賢い人間にするために、受精卵の遺伝子改変は許されるのでしょうか?

人の受精卵の遺伝子改変に対して、どこまで許されて、どこからはダメなのか、そしてその管理と決定をどのように行なうのか、今後、人類が考えていく大きな課題になります。

クリスパー発見から考える日本の科学

最後に、クリスパーの発見エピソードから日本の科学のあり方を考えてみたいと思います。

クリスパーという遺伝子配列は、1986年に現在九州大学の石野良純博士らによって発見されました。

クリスパーは「古細菌」と呼ばれる、地球に古くから存在する細菌が持つ遺伝子配列の一部です。

このクリスパーが遺伝子改変技術に非常に重要な役割を果たしました。

しかし石野博士らは当時、べつに遺伝子改変技術に使うことを目的として古細菌の遺伝子配列を研究していたわけではありません。

石野博士は、

「過酷な環境に生きる細菌は、なぜウイルスに感染しても生きていけるのか?」

という謎を解きたいから、研究をしていました。

知的好奇心に突き動かされていたのです。

細菌なので、人間のような白血球などの免疫システムがないのに、なぜウイルスに感染して、ウイルスの遺伝子が混入しても、細菌は生きていけるのか?

その答えが、クリスパーがキャス・タンパク質と合体して、混入したウイルスの遺伝子を切断する機構だったのです。

つまり、クリスパーは古細菌の免疫機能の一種でした。

その発見が近年Doudna博士とCharpentier博士らによって応用され、遺伝子改変技術が完成しました。

ここで問いたい2つの問題があります。

Q1. 日本はいったいどの程度、基礎研究にお金をかけるべきなのか?

現在の日本において、「AIやらIoTやらにお金をかけて研究しよう」と言って反対する人はいないでしょう。

一方で、

①「古くから生きている細菌の免疫機能の仕組みを知りたい」という研究

②身近な「待機児童問題の解消」

どちらに税金を投入すべきか?

と言われると、悩ましいのではと思います。

①のような基礎研究がどう花開くかは、今回のクリスパーのように分からないものです。

基礎研究と、身近に困っている人の問題解決、どのように税金を配分するのか?

そこに答えはありませんが、国民が考えるべき重要な問題です。

2つ目の問いは、

Q2. 研究者の待遇はこれでよいのか?

研究者なんて、はっきり言って「変人」です。

周りの人間が働き出しても27歳まで学生です。

友人が結婚して家を購入して、子供も生まれたなか、自分はまだ学生です。

その後、ポスドクや任期付の役職になり、30歳前半を過ごします。

運が良いとどこかで定職ポストにつけますが、いったいどこの大学のポストが空くのかも分かりません。

研究者は、この資本主義社会において、金銭的報酬と経済安定性を捨てて、ただただ「自分の知的好奇心」を優先する生き物です。

その能力を企業で発揮すれば、おそらくもっと少ない労働時間で、もっと高額の給料をもらえるのに・・・

研究者は待遇も大変悪いです。

2015年にノーベル賞を受賞した梶田先生も、普通にバスに乗って通勤しているのを見かけました。

企業だったら、それだけの生産性のある人間は公用車で動かして、時間あたりの効率性を高め、待遇も良くします。

知事は公用車に乗れて、ノーベル賞級の研究者は公用車で動かさないのですか・・・

日本は資源国でもなければ、農業や畜産国でもなく、技術立国です。

日本の資源は、人の知恵でしかありません。

その知恵の源泉は大学の研究開発能力であり、研究者です。

その研究者の待遇を「知的好奇心を満たせるから、経済的報酬と安定性は必要ないでしょう」という、いまの現状で良いのですか?

それで本当に将来的にきちんと研究者を確保できるのですか?

20年先の日本は良い姿になるのですか?

そこにも答えなんてありません。

重要なのは、義務教育や高校生の教育者が、こうした新技術を生み出した背景を理解し、日本の科学のあり方について、自分の意見を持つことです。

そして、子供たちが義務教育の段階や高校生のうち、つまり参政権を持つ前に、こうした答えのない問題を問いかけ、考える機会を与えることが大切です。

このような教育がもっときちんと行なえるように、私も何かできればいいな~と考えています。

以上、脈絡のないお話でしたが、クリスパーキャスナインの発見から考える、科学のあり方でした。

長くなりましたが、お付き合いいただき、ありがとうございます。