博士課程に進学か就職か悩む人へ|アドバイスと学振での給与生活のリアル

「博士課程への進学か、それとも就職か」を悩んでいる人に回答します。

私もいろいろ悩んだ結果、博士課程に進学し、博士卒業後はポスドクとして働き、現在は民間企業の研究開発部門で働いています。

その経験から、個人的な見解を述べたいと思います。

また、博士課程の「お金のリアル」も紹介します。

n = 1 の意見なので、参考程度にしてください。

もし私が、自分の研究室の後輩に

「博士課程進学と就職で悩んでいます。」

と言われたら、

「進学しても良いと思うよ」

と答えます。

なぜなら、自分がいた研究室なら、博士課程に進学し卒業しても、なんとでも上手くいくことが分かっているからです。

一方で、客観的な視点で本記事は執筆します。

2つのケースを考えます。

ケース1

「博士課程に進学して研究者になるか、修士で就職するか悩んでいます。」

ケース2

「博士課程に進学して就職もしくは研究者になるか、修士で就職するか悩んでいます。」

ケース1

「博士課程に進学して研究者になるか、修士で就職するか悩んでいます。」

「はい、悩んでいる時点で、そっこく就職した方が良いでしょう。」

これが私の結論です。

もしあなたが「アカデミックの世界で生きていくか、修士で就職か」を悩んでいるなら、就職をおススメします。

あなたが博士課程に進学し、この先アカデミアでポストを争うのは、例えば、以下のような悩みを考えている学生です。

「○○の研究者になりたいんですが、■■先生と△△先生の研究室はどちらが良いですか?」

「研究者になるには、国内より海外で学位取るほうが良いですか?」

そもそも考え方のスタート地点が違うんです。

彼ら、彼女らは

・自分がやりたい研究をやるのに一番良い環境は?

・世界一の研究者になるためには?

って考えています。

あなたがアカデミックで生きていくには、この先ますます少なくなる研究者ポストを、そんなレベルの人と争って勝ち取る必要があります。

そして、そもそも研究者ポストは、現在の日本の大学では「大変な環境」です。

大好きな研究に打ち込める場所ではないです。

研究時間より、学生教育と大学運営に取られる時間のほうが多いくらいです。

現在大学に勤めている先生方の大半は、私が思うに

大学を辞めて、研究と学生教育と大学運営にかけている労力と知能を、ビジネスの世界で生かせば、3/4の労働時間で、おそらく倍近い収入を得られるでしょう。

そんなことが分かっていても多くの先生方が、大学で働いているのは、

「そんな労働時間よりも収入よりも、私は○○の謎が知りたいんだ~!!」

っていう知的好奇心が、衣食住・金銭・労働時間の欲求に勝っているからです

残念ながら現在の日本の大学システムは、「知的好奇心」が、「衣食住・収入・労働時間の欲求」に勝っている稀有な先生方の犠牲の元に、成り立っています。

あなたの「知的好奇心」が、「衣食住・収入・労働時間の欲求」に勝っているなら、アカデミックポストを目指せば良いと思います。

ですが、

「博士課程に進学して研究者になるか、修士で就職かで悩んでいます。」

って言っている時点で、この条件はおそらく満たしていない可能性が高いです。

そのため、就職をおすすめします。

補足1
この先、リカレント教育と企業の副業認可が進むので、「週3日は企業で働き、週3日大学院博士課程で研究して、5年間で博士号を取る」というケースが増えると思います。そういう時代になってから博士課程に行くこともできます。

補足2
私は日本の大学システムを変えるには、G大学とL大学への区分ではなく、「教育と大学運営を担う専門教員」と「研究専門教員」に先生方の役割を完全分割することが必要だと考えています。

ケース2

アカデミックポストにこだわっておらず、博士卒業後に民間企業への就職も視野に入れているケースを考えます。

「博士課程に進学して就職もしくは研究者になるか、修士で就職するか悩んでいます。」

「はい、次の3条件を満たすなら、博士進学をおすすめします」

1. 研究分野の先輩が、博士卒で民間企業に多数就職できている

2. 研究室が博士の学生を「指導教員主導型論文生産の兵隊」として扱わない

3. 博士課程の3年間が極貧生活でも、我慢できる

各詳細に説明します。

1. 研究分野の先輩が、博士卒で民間企業に多数就職できている

自分の研究室や研究分野の先輩が、博士卒業後に民間企業に多く就職しているかが重要です。

残念ですが、分野違いの博士卒は、日本企業ではほとんど採用してもらえません。

2. 研究室が博士学生を「指導教員主導型論文生産の兵隊」として扱わない

指導教員が博士学生を一兵隊と考えている研究室では、成長しづらいので、一般的に博士進学はおススメしません。

ただしこれは、「指導教員の言うことは聞かず、博士課程で自分のやりたいことをやれ」と言っているわけではありません。

「指導教員とともに、新たな世界を開拓する」

そんなタッグが組める教員の下で博士課程を過ごせるのが理想です。

(私の場合はその点とても恵まれていたと思います)

そして指導教員の適度なサポートのもと、

「自分で研究分野をリサーチし、研究デザインを考え、研究遂行に必要な能力を身につけ、研究を実施し、学会発表、論文執筆・投稿・査読修正・アクセプトされる」

この一連の研究経験は、非常に貴重です。

この経験は、研究分野や研究対象が変わったり、ビジネスの世界でも通用する「何かを極める力」になります。

この「何かを極める力」を身につけると、

「何をやらしても、あいつはすぐにものにして一流になる、本質をつかむ」

って周りから思われるようになります。

(博士卒の学生全員がその域に達するかと言われれば微妙ですが・・・)

この「何かを極める力」が身につけられる研究室であれば、博士課程進学を勧めます。

3. 博士課程の3年間が極貧生活でも、我慢できる

博士課程の3年間が「どれだけ極貧生活になるのか」をきちんと理解しておくことが重要です。

なお私は博士課程1年目に結婚し、妻はパートという状態でも博士課程を生きていけたので、生活は成り立ちます。

(多少の親の援助はいただきつつですが・・・)

ただし、修士で就職した周囲の友人は楽しそうな生活をしているのに、自分は我慢して、極貧生活をする必要があります。

博士課程で経済的にも恵まれている部類で多数を占める

「学振に採用されているケース」を想定し、「博士課程のお金のリアル」を紹介します。

学振に採用されている場合の給与は月額20万円です。

そしてその一部を研究経費に献上しない場合、そのまま受け取れることになります。

何も知らない近所のおばちゃんは、

「世間の給与水準からすれば恵まれているわよ~。

大好きな研究ができて、お金までもらえるなんて」

って言いますが、現実厳しいものがあります。

実際にこの月給20万円がリアルにどうなるのか紹介します。

博士2年目以降で考えます。

自分は結婚していたためレアケースなので、一人暮らしの場合を計算してみましょう。

「総収入」

給与合計は、20万円×12ヶ月で、年間240万円です。

ボーナスなんてありません。

「所得」

収入から控除を引いた分を「所得」と呼び、所得に対して様々な税金がかかります。

給与年収240万円の場合は、給与所得控除が(30%+18万円)、それと基礎控除が33万円です。

これらを引き算すると、所得は117万円となります。

「引かれるもの」

・所得税

所得税は5%です。117万円×5%で、年間58,500円(月4,875円)です。

だいたい月5,000円です。

・国民健康保険

これは自治体によって変わりますが、だいたい月14,000円くらいです。

国民健康保険は曲者です。

学振は雇用関係がないので、博士課程の学生は自営業の人と同じ扱いにされます

一方で、世間の自営業の人は、交通費や会議費、車代、家賃、光熱費などを経費で落として節税することもできるので、所得117万円は、国民健康保険のなかでは高額な部類になり、保険代をがっつり取られます。

・住民税

これも自治体によって変わりますが、市区町村民税6%と都道府県民税4%で、10%と思ってよいです。

すると、年間11.7万円となり、月10,000円くらいです。

・国民年金保険料

国民年金は月15,000円くらいです。
(学生ということで、支払いを先送りすることもできますが、その分は結局後で納めることになります)

・授業料

これは大学によりますが、私の場合は、半額免除で半額支払う必要がありました。東工大の友人の場合は全額免除されていました。

国立大学の場合、授業料が年間50万円ちょっとなので、半額で年間25万円、月20,000円を支払う必要があります。

「大学、まじ鬼か!」って感じでしたね・・・

博士1年目は前年度所得がおそらく0円に近いので、所得依存で引かれるお金は少ないですが、2年目以降はこんな感じで引かれます。

結果、毎月の手取りは、

20万円 – (所得税0.5万円) – (国民健康保険1.5万円) – (住民税1.0万円) – (国民年金1.5万円)
= 20万円 – 4.5万円
= 15.5万円

です。

結局、毎月の手取りは15.5万円です。

私の場合はさらに授業料が引かれて、13.5万円でした。

授業料を支払う必要があるかどうかは、自分の先輩に聞いてみてください。

ここからは、生活費を考えましょう。

一般的に家賃は手取りの3割以下が理想といわれます。

なお学振は通勤手当は出ないので、「家賃+定期代」で手取りの3割が理想です。

15.5万円の手取りの場合は、「家賃+定期代」で月額46,500円です

(私のように授業料が半額免除にしかならないケースでは、月額40,500円で家賃+定期代です)

都会では無理に近いです。

家賃は人によりますが、私が本郷の北の方に住んでいたときは、1Kで家賃69,000円でした。

このあたりから、もう極貧生活の臭いがプンプンです。

光熱費・通信費を考えましょう。

光熱費は生活スタイルによるでしょうが、電気・水道・ガスで月1万円くらいです。

スマホ代や家のインターネット代金も必要なので、月5千円~1万円がかかります。

光熱費・通信費で合わせて1.5万円を引くと、15.5-1.5=14万円です。

つまり、光熱費・通信費を除いて、月に14万円で以下をまかなう必要があります。

・家賃

・定期代

・食費

・美容院や洗剤など生活必需品といった生活費

・病院に通えば通院代

・コンタクトならコンタクト代

・盆、年末に帰省するのであれば、その代金も積み立てておく

「世間的にはそれくらいできるわよ~」と思われるかもしれませんが、博士課程の多忙な研究生活では自炊も難しく、厳しいところがあります。

結局、「ギリギリに生活できるレベル」になると思います。

無理ではないですが、贅沢はできません。

おそらく貯金は無理だと思います。

一方で、あなたが博士課程に行かなかった場合を考えてみましょう

「学振で月給20万円は世間的には裕福なくらいで、手取り15.5万円も羨ましいくらいだ」

って意見があるとは思います。

ですが、学振に採択される博士課程の学生は、世間の平均より当然レベルが高いです。

修士で就活すれば、外資系企業やトヨタをはじめ、日本の各業界の有名大企業から内定をもらえるでしょう。

つまり、博士課程に行かなかった場合の「自分」と比較しないと意味がありません

私の周囲で大企業に勤めている人をもとに、

博士課程に行かなかった場合の「お金のリアル」を考えてみます。

修士新卒であれば、月収22万円

+家賃補助2万円

+通勤手当

です。

そして、ボーナスは2ヶ月分×年2回です。

つまり、月あたりに換算すると、額面で月31万円+通勤手当です。

外資の友人は多忙ですが、もっともらっています。

そして、盲点なのは、残業代です。

企業であれば残業すれば、残業代がでます。

残業の時間給は2,000円近いので、月に10時間ほど残業すれば+2万円くらいでしょう。

博士課程の学生は、普通のサラリーマンよりは長時間研究している人の方が多いです。

ですが、残業代なんてありません。

よって、大雑把な話、

・あなたが博士課程で学振に採択された場合は月給20万円

あなたが大企業で働けば、月給33万円くらい

その差は月13万円です。

友人のFacebookやインスタはめちゃ楽しそうな感じです。

そりゃお金もあって、時間もありますから。

そして博士課程の2、3年目くらいになると、学部時代や修士時代の友人は、結婚したり、子供が生まれたり、車を持っていたり、ときには家も購入しています。

一方で博士のあなたが持っているのは、崇高な研究をしているという誇りと、学割で電車に乗れるメリットだけです。

(そんなことないかもしれませんが・・・)

博士課程に進学したいのであれば、この圧倒的な経済格差に3年間耐えられる必要があります。

補足
国はこの圧倒的経済格差をどうにかしないと、この先、優秀な人間は博士課程に進まないでしょう。学振で研究する博士課程の学生の待遇を、トヨタなど日系トップ企業と同レベルにする必要があります。
少なくてもこの現実をふまえて、自分が親だったら、子供に博士進学は勧められないでしょう。

まとめ

自分勝手に意見を書いてしまいました。

これは私の目から見える範囲の話なので、全然違うケースの人もいるかとは思います。

たった一人の人間の一意見であり、参考程度にしてください。

ですが、きっと私は、自分の子供が博士課程に行きたいって言えば、

「やりたいなら頑張っておいで」って言うでしょうね。

(子供いないけど)

博士の3年間、自分の好きな研究に打ち込んで、世の中のオンリーワンの研究をして、

「どうして、この世界はこのようにできているんだ~?」

っていう疑問に徹底的に取り組んで、それが論文という形になる経験は、お金には換算できないです。

そもそも「博士と修士就職で悩む」なんてなくなるくらいに、博士課程の学生の生活が保障されることを願っています。

そして、博士卒のキャリアパスがより広がるように、私も博士卒の人間として、社会で活躍できるように頑張りたいと思います。

以上、ご一読いただきありがとうございました。